March 31, 2007


わが庵の最寄り駅前の桜2007

 

 

 

 

 

わが庵の最寄り駅前の桜

「花見に行こうぜい」
 と、不意に思い立って友人のIに電話したのは、水曜の夕方だった。
 金曜日(つまり昨日のことだ)の午後に九段下で人と会う用事があったので、出かけるついでだし、用事が終わるのは5時頃だろうから、そのあと落ち合って……というつもりだったのだけれど、「金曜日は雨らしいですよ」とIが言う。
「週末も天気はよくないみたいだから、来週にしませんか」
「雨が降るのに、来週で大丈夫かな」
「大丈夫じゃないですか。まだ咲ききっていないようだし」
 しかし、いま思い立ったのに、週を跨ぐというのは気勢がそがれる(このあたり、性格的にせっかちなのだ。仕事はスローなのにね)。
「じゃあ、いっそのこと明日にしよう」
「咲き具合はどうでしょうかね」
「なあに、開ききったうえに風雨に打たれた熟女より、乙女の桜のほうがいいじゃない」
 と、ぼく。ほとんどオヤジ的発想だが、ナニ、とにかく週のうちに花見という行事を終えておきたかったというだけだ。

 というわけで、木曜日の夕方、新宿にあるIが通っている事務所に出向き(ここはぼくの仕事先の一つでもある)、さらにそこで仕事をしている女友達2人を誘って花見に向かった。
 花見といっても、酒肴を用意し、ビニールシートを小脇に抱えて、などというスタイルではない。ぼくの場合は、桜の下をしばらく散策したのち、どこぞの店に入って一杯飲るというのがこのところのパターンで、例年なら市ヶ谷駅前に集合し、市ヶ谷土手の桜をめでながら飯田橋の駅まで歩き(ゆっくり歩いても20分くらいか)、そこで左折して牛込橋を渡り、神楽坂で適当な店を探すという、花見2割、飲み8割なのだが、今年はIの提案で、四谷スタートということになった。本当は、「新宿から歩きましょうよ」とIは提案したのだが、それでは花見か競歩会かわからなくなってしまう。

 新宿から地下鉄で四谷へ行き、まず四谷土手の桜を実ながら市ヶ谷へ。女のうち1人は仕事を片付けてから行ければ行くということだったが、途中ケータイに「参加できる。これから向かう」との連絡が入り、市ヶ谷駅で待ち合わせ。そして、4人そろったところで、市ヶ谷土手から飯田橋方面へ。
 結果的に“木曜日決行”は大正解だった。風はなく、馬鹿に暖かくて、花だって十分に開花している。その暖かさに誘われてだろう、木曜だというのに市ヶ谷土手にはネクタイ族の集団が数多く酒宴を繰り広げている。

 ぼくらはIの主導で、飯田橋駅ちょっと手前で右折。そこから九段へ出、靖国神社へと足を伸ばす。千鳥ヶ淵の桜は知っているが、靖国神社の桜はぼくは初めてで、脇から入ったら参道の両側には屋台がずらりと店を張っていて――射的なんてのもある――驚いた。
 また人出も半端ではなく、千鳥ヶ淵への道はお巡りが規制しているほどで、これも“暖かさに誘われてあちこちから這い出してきた”という感だ。
 だったので、ぼくたちは千鳥ヶ淵の桜は手前からちょっと覗いただけで、Uターンして飯田橋方面に向かい、ようやく神楽坂へ。しかし、その神楽坂も、テレビドラマのせいだといわれる近ごろの神楽坂ブームに加えて、花見帰りの客という要素が加わったのだろう、覗く店、覗く店、軒並み満杯で、脇道をいくつが探り、ようやく客が一組帰るから間もなく席が空くという居酒屋を見つけて、腰を降ろすことができたほどだった。
 四谷から始めて、歩くこと約1時間。その間、飲まず食わずである。夜になっても暖かく、歩いていると汗ばむほどで、この夜ばかりは、さすがにぼくも“とりビー”(とりあえずビール)から始めた。

靖国の桜

靖国神社の桜

 ……あとはいつもの飲み会と同じである。ぼくも含めて仕事場を同じくする者ばかりであるから、仕事の話が酒の肴になっていく。
 しかし、ぼくの頭の中には、別のこともあった。
 一昨年、がんで逝った年下の友人Kのことだった。Kもぼくと同様にこの会社の仕事をしており、しかも当夜のメンバーとはそれ以前からの付き合いがあった。だから生きていれば、そして時間があれば、この場にいたはずなのだ。実際、Kとこの花見行をやったことがあり、そしてKが死んでから、いや、がんが見つかり入院してから、これをやるのは初めてのことだった。
 四谷から神楽坂まで歩いている途中、ずっとそのことが頭を離れなかった。
 Kは死に、ぼくは生き延びて今年の桜を見ている。この2つを分けるものはいったい何か――。
 それは人によっていろいろな解釈があるだろう。
 しかしいまのぼくは、ラッキーとアンラッキーというほどのことでもなく、放り上げたコインが落ちて出た目が表か裏だったか、単にその程度のこととしか思えないのだ。

  逝きし友と我とを分ける桜かな タオ

 昨日(金曜日)の雨は朝のうちに止み、ぼくは約束通りに九段下へ出かけ、ついでだからあらためて明るいうちの九段の桜を見ながら帰った。しかし、風が強くて肌寒いばかりだった。



(22:34)

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この記事へのコメント

1. Posted by Makayla   September 23, 2013 01:51
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