November 26, 2006

センセイの鞄

 

 

 

 

 

 

 このところ、わりと小説がよく読める。“よく読める”というのは、気分的に小説を読みたくない(小説に手が伸びない)ときがあるからだが、それでなぜか女性作家の小説を立て続けに読んだ。
 といっても、3カ月ほどの間に3冊だから、“立て続け”というほどのものでもないのだけれども、ふだんあまり女性のそれは“なぜか”読まないので(ずっと以前、『ゴサインタン』を読んで、篠田節子に関心を持ったことがあったけれども)、だから本人感覚としては“立て続け”なのです。
 で、どんな作品かと聞かれれば、答えるのも恥ずかしい。どれもいわゆるベストセラー本であり、「何をいまさら」と言われるだろう作品ばかりだからで、読んだ順番で挙げると……

 小川洋子『博士の愛した数式』
 恩田陸『夜のピクニック』
 川上弘美『センセイの鞄』

 ……ね、恥ずかしいでしょ。
 どの作家もこれが初対面です(付け加えれば、どれも文庫本)。
 以下はその短い感想。

『博士の愛した数式』は書店に新刊で並んでいた時に、妙にタイトルが引っかかっていた。
「博士の…」は、キューブリック監督の映画『博士の異常な愛情』が思い浮かぶ。「××の愛した…」は、世界で一番有名な秘密諜報員007シリーズの1冊『私が愛したスパイ』だ。でもって、「数式」は、ぼくが数学が苦手なことからコンプレックスを感じるコトバ……ということから、気になっていたのだとたぶん思う。
 でも、だからといって本そのものに手を伸ばすまでには至らなかった。
 読んでみようかなーと思ったのは、映画化されたものをレンタルDVDで見たことだった。これがとても面白く、よくできた映画だった。それで、原作ではどう物語が綴られているのかと興味を持ったところへ、文庫化されたので買った読んだ。
 そうしたら、小説も面白かった。「見てから読むか、読んでから見るか」というのは映画に進出したときの角川書店のキャッチフレーズだったが、本が面白いと思えば映画に不満が残る、映画が先なら本に……と、それぞれ先に読んだり見たりして面白かったと思った、そのイメージに縛られるから、おおむねそういう結果に終わることが多いものなのに、この作品は映画を観てからでも面白かった。その意味では、これはまれなことだ。
 で、これからは映画を誉めるのだが、映画の利点は当たり前だが映像で語れるところだ。映画では、博士からルートと命名された少年が、短い期間なのだが博士と過ごしたことの影響から、長じて数学の教師となり(これは小説にはない。青年ルート役は吉岡秀隆)、生徒たちにいかに数学の世界が面白いかを教壇で語るシーンから始まる。そして、小説の中でさまざまに出てくる数字や数式を、そのエピソードの都度、黒板に書きながら説明してくれるのだ。小川洋子の文章もわかりやすく書かれていると思うのだが、やっぱり映像のほうが理解を助けてくれる。このアイデアが秀逸だ。
 博士役は寺尾聡で、だから小説の設定よりは若いのだが、淡々としていながら哀しみを秘めているキャラクターをよく演じていた。主人公の家政婦は深津絵里で、これはベストの適役だったと思うし、深津絵里の代表作となったと思う。

『夜のピクニック』は、恩田陸という作家の名前が引っかかっていた。といって、読んだことがないから、男か女かわからず、女性だと知ったのはわりと最近のことだ。ちなみに、「陸」という名前の女性は、ぼくは1人しか存じ上げない。大石良夫クンの妻女だけだ。大石クンは社長の失態で会社が潰れるまで、(株)赤穂塩業の筆頭専務だった人で、内蔵助というミドルネームを持つ。
 それはさておき、小説はというと、ただ長距離を歩く、というシチュエーションなのに、一気に読ませたよくできた青春小説だった。ザッツ・オール。

 最後の『センセイの鞄』は、ずっと以前に買って、読まずにいたもの。
 なぜ読まなかったか。テレビ化されたものを見たからだったと思う。
 センセイが柄本明、主人公のツキコさんが小泉今日子。演出は先般亡くなった久世光彦さん。
 久世さんの作品は、「向田邦子スペシャル」を初めとして好きでよく見ており、また作家として書かれたものも好きなのだが、これは何だかつまらなかった。それで本は手つかずのままだったのだが、女性作家のものをに2冊読了した勢いで読んでみた。
 そして、読みながら気づいた。
 これは向田邦子の世界だ……。
 たとえば、こんな一節。

〈…同じ町内にある、しかしたまにしか訪れることのない、母や兄夫婦や甥姪のさんざめく家に帰ると、どうもいけない。今さら嫁に行けだの仕事をやめろだの、言われるわけではない。その種の居心地のわるさを感じることは、とうの昔になくなっていた。ただ、なんとなしに釈然としないのだ。例えば、身の丈ちょうどの服を何枚もあつらえたはずだのに、いざ実際に着てみると、あるものはつんつるてんだったり、あるものは裾を長くひきずってしまったりする。驚いて服を脱ぎ、体にただ当ててみれば、やはりどれも身の丈の長さである。そんな感じか。〉(「お正月」)

 主人公がゆきそびれた四十路目前の女性、という設定がそう思わせるのかというと、そればかりではない。では、文体が似ているのかというと、そうでもない。ただ、その語り口や主人公の感性的なものが向田邦子の――とくにエッセイを思わせるのだ。

 ……その時に合点した。だから久世さんは、この作品をドラマ化したのだと。
 そう思ったら、その“発見”(事実はどうなのか知らないんだけど)に、嬉しくなった。



(05:06)

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この記事へのコメント

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