November 13, 2005

 

 この一文は昨年(2004年)秋に書いたものです。

 

頭の体操 近ごろ本屋へ行くと「脳力活性」だの「脳を鍛える」だのといったタイトルの本がよく目につく。しかも、子ども向けから中高年向けまであって、一種ブームの様相がある。もちろん「脳力」なんていう日本語はなく、誰かの造語なのだが、パテントを取っておけばさぞや儲かっただろう、と思うほどだ。

 本でこれだけあるのだから、テレビにないはずはなく、たとえば『脳内エステ IQサプリ』なんて番組があって、“脳のマッサージ(エステティック)”と“知能のための栄養補助(サプリメント)”というようなニュアンスなのでしょう。

 

 では、「脳力活性」だなどというからどんなものかと見てみれば……何のことはない、たいていはいわゆる「頭の体操」の類で、ちっとも新しいものじゃない。

 この「頭の体操」も造語だが、何で“いわゆる”と付けたかというと、若い人たちはどうか知らないけれど、ある世代から上の人たちにはそう言っただけで、共通認識できるコトバだからだ。それぐらい日本人には膾炙しているし、このコトバが出てきたときのインパクトが強かった証拠にほかならない。

 

 その元になったのは、このコトバをタイトルとした1冊の本だった。

光文社カッパブックスとして1966年(昭和41)に出版され、その年を代表するベストセラーになると同時に、パズルクイズブームを巻き起こした。

 著者は心理学者の多湖輝(たごあきら)教授。「頭の体操」というネーミングも新しかったが、著者の名字もめずらしく、これもたぶんインパクトのひとつになったと思うね。

 で、どれぐらい売れたかというと、シリーズが20集も続き、あれから30年にもなるというのに、第1集は版を重ねて250万部にも至っているという(現在は光文社「知恵の森文庫」)。

 なんでそんなに売れたのか。時は高度経済成長まっただ中。2年前に東京オリンピックと東海道新幹線開通の二大イベントをやってのけて、さあこれから欧米に追いつき追い越すぞ、というタイミング。そのためには“柔軟なアタマと発想の切りかえが必要だ”とされた時代性とうまくフィットした――と言う人は言う(ちなみに「体操」は東京オリンピックを意識したものだそうな。30へぇ)。

 

 ならば、今日の「脳力」ブームもわからないでもない。30年前も時代の転換期だったが、いままた転換期の渦中だからだ。

 企業も終身雇用や年功序列制度が崩れ、サラリーマンはサバイバルの時代。老後だってちっとも安泰じゃない。これからいったいこの社会がどうなっていくのか、誰にもわからない。古い価値観は捨てて、またアタマを切り換えていかないと、これからは生きていけませんよ……という意味では、いまのブームのほうがその背景はシビアである。

 

(『P's ANIMO』誌 2005.WINTER号掲載分に一部加筆)

 



(20:16)

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