October 20, 2005

 借りてきたDVDを2回見返して、2回とも鼻水が出てしまいました。

 映画などを見ていて、ある役者を“認識”するのは、必ずしも世間が“これだ”いうときではない。そのアメリカの中年男性俳優については、プロフィールを見ると『セブン』でブレイク、『ユージュアル・サツペクツ』でアカデミー助演男優賞受賞とあるが――両方とも見ているのだけれど――ぼくが“認識”したのはJ・エルロイの小説を映画化した『L.A.コンフィデンシャル』だった。
 その俳優とはケヴィン・スペイシーで、以降、C.イーストウッド監督の『真夜中のサバナ』、サミュエル・L・ジャクソンが主演だった『交渉人』、ピューリッツァ賞をもらったという文学作品の映画化『シッピング・ニュース』、SFチックな『光の旅人』などを見ているのだが、印象としては“どんな役柄でもこなせる――シブい――巧者”という印象だった。

 だからといって、彼の大ファンというわけではなく、見ていないのも多いのだが、この映画(DVDですが)を観たのは、古くはジェームス・スチュアート主演の『グレン・ミラー物語』、ダニー・ケイの『五つの銅貨』、ダイアナ・ロスがビリー・ホリディを演じた『ビリー・ホリディ物語』、近くはレイ・チャールズを描いた『Ray』、ケビン・クラインがコール・ポーターに扮した『五線譜のラブレター』など、ミュージシャンを描いた映画が好きだという流れなのだが、オープニングでケヴィン自身が歌う「マック・ザ・ナイフ」でいきなり引きずり込まれてしまった。

ビヨンド the シー この映画――『ビヨンド theシー』は、ボビー・ダーリンという1960年代のアメリカ・ポップス界のスーパースターだった歌手の物語だ。といっても、ぼくは名前は聞いたことがあるけれども、よく知らない。ただ、冒頭のケヴィンが歌う「マック・ザ・ナイフ」で、「ああ、この歌を歌った歌手か」と思った程度だった。タイトルの「ビヨンド・ザ・シー」もボビーの歌のタイトルで、聞けば耳になじみかあったから、アメリカではこのタイトルだけで「ああ、ボビー・ダーリンの映画なのね」とわかるのかもしれないけれども。
 従って、ぼくにボビー・ダーリンに対する思い入れは何もない。
 では、何で面白かったのかといえば、一にも二にもケヴィン・スペイシーだった。

 映画の中での大半の歌は彼自身が歌っており、ロカビリーからスウィングジャズ的なナンバーまで歌い分ける巧みさ(決してボビー・ダーリンの歌真似をしているのではないことは、ときおり流れるオリジナルを聞くと、ボビー・ダーリンの声はもっと甘いことからわかる。つまり、自分なりに歌っているのだが実にいい)。
 さらに、『ザッツ・エンターテイメント』に出てくるかつてのミュージカル映画のような1面もあり、いくどか群衆のダンスシーンがあるのだが、その真ん中で踊るケヴィンの見事さと恰好よさ。アメリカ・ショービズ界のレベルの高さを知らされるのは、こんな時だ。
 
 そして、もちろん物語の巧みさもね。
 感染症の心臓病で15歳が寿命と医師から宣告された少年が、母から音楽という素晴らしい世界を教えられ、“シナトラを超える”ことを目標に、義兄や姉らの力を借りながら売り出していく。そして、映画出演で知り合った若きトップ女優を口説き落として結婚し、グラミー賞も取り、映画にも出てオスカーの候補にもなる。
 しかし、60年代に入り、音楽シーンも大きく変わる。かつてはクラブが最高のステージであり、その中でも最高の「コパカバーナ」にも出たのだけれど、折しも、ベトナム戦争の時代だ。「音楽はクラブではなく、スタジアムの時代になってしまった」。もはや忘れられた彼はどうするのか。しかも、複雑な家族関係を初めて知らされる――。

 こいつをやりたかったのはケヴィン・スペイシー自身で、企画・監督・脚本も彼。企画から10年以上というから、ケヴィンのライフワークのひとつだったのだろう。

 映画の中で、いつも主人公につきまとうのが、「15歳で死ぬ」と宣言されたときの自分の幻影の少年で、ラスト、その少年と見事なダンスを見せるシーンは秀逸で……ここで鼻水が出るのです。

 映画のオフィシャルサイトにアクセスすると、ずっとケヴィンの「ビヨンド・ザ・シー」が流れている。
 http://www.gaga.ne.jp/beyondthesea/

 



(00:02)

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この記事へのコメント

1. Posted by Kylie   July 27, 2013 07:03
LOL!!!Do you have a fresh just one???

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