September 07, 2005
●1本目
地下鉄にて。
座席シートの右端に坐っていたら、すぐ右手、乗降ドア前に立っていた女子高生と思しき2人連れの話し声が聞こえてきた。
「この雑誌って、“熱い紙”という意味よねえ。どういうことなんだろ?」
「わかんなーい」
“熱い紙”とはどんな雑誌ぞ? と首を右にひねって見上げたら、1人が雑誌を広げていて、表紙に『Hot Pepper』とあった。
もう少しお勉強をがんばるようにね。
●2本目
大阪から単身赴任で東京に来ていて、ついこの間大阪に戻った友人のT氏。
居酒屋でとりとめもない話をしていたら、きっかけは何だったか、ぼくが「不義密通は……」と言ったら、
「それはあきまへんわ。多すぎる」
とT氏。
「へっ?」
と問い返すと、
「不義も、ひとつやふたつならともかく、3つは多いわ」
あのー、“3つ”じゃなくて、“密通”なんだけど……ま、たしかに“不義3つ”は多いわな。
●3本目
ファストフードの代表、Mクドナルドの広告キャンペーンのキャッチコピーにいわく、
ファーストフード。
そのおいしさや安心は、
スローにつくられています。
「スロー」ということばに新たな意味を付与したのは、イタリアの田舎町から発せられた「スローフード運動」だが(それについては島村菜津著『スローフードな人生!』=新潮文庫=に詳しい。いい本です)、その発端がローマに進出しようとしたMクドナルドに対する反対運動だったことはよく知られている(結局進出しちゃったけど)。
その運動の理念は、ファストフードに象徴される大量生産・大量消費・大量廃棄を前提としたグローバリゼーションを強いるアメリカ的世界侵略に対する抵抗で、それを“自分たちの食の文化を護り、子供たちに伝承していく”という地点から始めよう――というものだ。
一方、シューマッハー『スモール・イズ・ビューティフル』を文字って『スロー・イズ・ビューティフル』なる本を著し、マクドナルド的20世紀的価値観からの転換を訴えたのが文化人類学者の辻信一で、その“スロー”には“エコロジカルでサスティナブルなあり方”という意味が込められていた。
しかし、いまやことばもまた消費されていくものでしかない。「スロー」ということばもまた使い回され、都合のいいように曲解されて、ついにはMクドナルドが企業イメージの広告キャンペーンに使うまでになってしまった……という、笑っちゃうけど笑ってはいられないお話しでした。