November 2008

November 28, 2008

 背中の背骨の左側、それも上から手を伸ばしても下からやっても指先がやっと届くかどうかという真ん中あたりに、なにやらコリコリする小さな塊がある。
 たぶん脂肪の塊だと思うが(医者に言わせると年を取ると出やすいもので、とくに背中が多いとか)、この辺りが夜中、パソコンに向かっているときなどにときどき痒くなる。それである時、100円ショップで「孫の手」を見つけ、以来、痒くなると孫の手でガシガシやっていた。あ〜気持ちんよか……。

 ところが、2週間ほど前からその辺りに痛みを感じるようになってきた。
 心なしか腫れているような気がする。
 それでも初めは気にならなかったのだが、痛みがだんだん増してきて、仰向けに寝ると不具合を感じるようになってきた。
 そのうち何かジュクジュクした感じになり、これは医者に行かねばならないかな――と思ったのだが、そこはそれ、基本的に医者嫌いである。それで孫の手の先にテッシュペーパーを巻き付け、消毒液を含ませては、その辺りになすり付けるというようなことをやっていた。こんな時に感じるのが独り者の不便さだ。どうなっているのかもわからないし、何をかなそうと思ってももどかしい。

 先週の金曜日(21日)はぼくの出版記念パーティーだった。ぼくの2冊の本(『朝めしの品格』『がんを防ぐセルフヒーリング』)の出版を祝ってくれようと先輩たちが企ててくれたもので、ぼくとしてはどちらも2月の出版だから一度は辞退したのだけれども、「出版不況の時代に2冊も出してもらえるというのはめでたい。ぜひやるべきである」という強いおすすめから、ありがたく開いていただいたものだ(晴れがましいことは苦手なので当日まで気が重かったけれども)。
 その前日、20日の夜は、いま取り組んでいる“サラ弁”宇都宮健児弁護士の自叙伝のためのインタビューだった。ぼくの高校(熊本県立熊本高等学校。略称クマタカ)の先輩だぞ、と依頼された時に言われたのだけれども、最初にお会いして話したら、何と中学も同じ。そういうことは、インタビューに多少緩やかさをもたらしてくれる。
 で、出かけるのでTシャツを脱いだら、背中部分に薄く赤いシミができている。ちょっとやばいかなと思いつつ、新しいTシャツに着替えて仕事に向かったのだが、どうも背中が気持ち悪い。ときどき張り付いたりしている。
 夜遅く家に帰って脱いでみたら、血と膿とが混じったような大きなシミができていて、「あ、こらいかん」と覚悟した。

 実はその前日に、自宅近辺の皮膚科をネットで探し、適当だと思われるクリニックに電話で相談したところ、それは外科的処置が必要かもしれないからと“胃腸クリニック”という名前の病院を紹介されていた。何で胃腸クリニックかと思ったが、ネットで見ると外科もあるからで、夕方6時過ぎだったと思うけれどもそこにも電話し、症状について相談した。ところが翌日の木曜日は休診日だという。
 そこであらためて電話することにしたのだが……間に合わず、腫れ物が破れてしまったのだ。

 パーティー当日。午前中にクリニックに電話し、お昼ちょうど頃に自転車を漕いで向かう(最寄りの駅前の新しいビルに今年2月にオープンしたばかりだという)。Tシャツを脱いで患部を見せたら、「ほほう、立派なものですね」と院長は笑う。
 処置としてはちょっとばかり切開し、膿を押し出すというもので、局所麻酔をしたというけれども、押し出されるときの痛いのなんのって。こんな時には“息をゆっくり吐く”のだけれども、それにしたって猛烈に痛い! 次に、何をしているのか見えないからわからないけれども、たぶん傷口にガーゼを押し込んでいるのだろう、このグイグイも痛い!
 受診前に受付で体温を測ったら、37度台あった。前日の取材時からからだが怠かったのだが、これは背中の化膿と免疫の闘いだったのだろう。
 そうして処置を受け、ビルの1階の薬局で処方された抗生物質、痛みと熱があるので鎮痛解熱剤、その鎮痛解熱剤は胃を荒らすので胃薬(アスピリン系なのだろうか)の3種を買わされ、一度家に戻ってちょっと休憩してから、時刻にパーティーに出かけたのだけれども……。

 身体への強い痛み(この場合は治療の時のそれ)はストレスとなってからだから元気を奪う。一方、37度台という半端な熱もぼくの場合は一番元気を奪う。だから、会場のある新宿に着いた時には若干ヘロヘロで、これじゃいかんと道すがらドラッグストアで「リポビタン・ローヤル」とやらを購って店頭で飲んでちょっとばかり元気の元を仕入れ、さらに事前に電話して紀伊国屋前で待ち合わせていたナチュロパスの女友達と落ち合い、会場の片隅でしばらく首筋から肩、頭部へのマッサージを受けたりした(早めに行ったつもりだったが、どんどん知り合いが来て、何をしているのだろうと訝しげな目で見ていたけれども、それどころではなかった)。
 会は50人を超える友人・知人が集まってくれ、盛況だったのだが、それでもイマイチダメで、本来なら朝まで付き合わなければいけないのに、たいして飲まないまま、終電で帰ってしまった。

 ……以降、ずっと毎日、クリニックに通っている。院長に言わせると回復に向かっているらしい。しかし、毎回のガーゼの取り替えは相変わらず痛いし、微熱も去らない。
「来る前に傷口のカバーを外してシャワーを浴び、またカバーしてくれば治りが早いかも」
 だから……。
「ああ、独り者か。手も届かないところだけに、むずかしいことですよね」
 苦笑まじえにそう言われたのは、昨日の夕方のこと。

 独り者の背中は哀しい。

(03:32)