September 2008

September 13, 2008

探偵!ナイトスクープ  文庫本だが上下2冊、合計394ページを一気読みしてしまった。
 こんなことは初めてのことだ。

 

 ぼくの故郷・熊本は、ことテレビに関しては――いまはどうか知らないが――大阪文化圏だった。大阪発のお笑いドラマも多かったし、藤山寛美も吉本新喜劇もあった(なぜか『てなもんや三度笠』は放送されなかったけれども)。だから、大阪発のプログラムなど珍しいものではないのだが、目からウロコというのか、とにかくビックリして大阪発の番組のすさまじさを感じ、印象を新たにしたのが、笑福亭鶴瓶と神岡龍太郎の『パペポTV』だった。
 何がすごかったか。東京では日本テレビが深夜オンエアしていた1時間番組なのだが、毎週この2人しか出てこない。とくにテーマがあるわけでなく、最近体験したことなどについてトークする、ただそれだけなのだ。東京であれば、メリハリや変化をつけるために誰かゲストを招き、そのゲストを中心にトークするというカタチになるだろう。そんなことはいっさいなし。ただ2人でしゃべる、それだけなのだ。
 なのだが、こいつがものすごく面白い。鶴瓶が主に体験をしゃべり、神岡がツッ込む。ときにツッ込まれて鶴瓶があたふたする。それを神岡は意地悪そうに見ている。ときには鶴瓶のリアクションに、あの神岡がこらえきれずに大笑いする。
 これだけ。こんなに安上がりで、むちゃくちゃ面白い番組を東京はつくれるのか?

 

 そのうちに、ビートたけしがこれを見ているとか、いろいろ注目されている話が漏れ伝わるようになるのだが、数回見たあと、あまりの面白さに、ぼくは当時持っていた『月刊宝石』のコラムに、この番組について書いた。この番組について東京発のメディアに書いたのは、ぼくが最初ではないかとじつは自負している。
 この番組で、鶴瓶は何回目かの、神岡は初めての東京上陸を果たして番組を持ったりするのだが、『パペポ…』ほどに輝いている2人を見たことがない。鶴瓶は神岡を、神岡は鶴瓶というキャラクターを得てこその面白さだったことを、ぼくはつくずく思った。
 ちなみに、テレビ東京『キラキラアフロ』はこの焼き直しで、鶴瓶とオセロ・松嶋というコンビになっているのだが、松嶋がボケで鶴瓶がツッ込むというスタイル。松嶋の超ボケぶりが面白くて人気番組になっているが、本来鶴瓶はツッ込みタイプではないので、イマイチもの足りない。鶴瓶は神岡龍太郎という優れたツッ込みがあってこそ、あの面白さがあったのだと思わずにはいられない。

 ついでに書いておくと、ぼくの母親は、弟が録画していた『パペポ…』を深夜見て、アハハハ…と笑って床に就いた翌朝、急性心不全で急死した。幸せな死に方だったかもしれない。

 

 ……というのはマクラであって、次に大阪の番組の面白さに衝撃を受けたのが朝日放送『探偵!ナイトスクープ』だ。この番組を知らない人は不幸である、といってもいい過ぎではないとぼくは思う。
 視聴者からの依頼の手紙で、探偵たちが行動する――という1時間番組で、探偵長は初代が神岡龍太郎(神岡引退後は西田敏行)。おばかな依頼が多いけれども、ときに感動もののケースがあって、見ているこちらは笑いながら泣いているということも少なくない。
 派遣される探偵たちの多くは、桂小枝、間寛平、北野誠…等々、関西系の芸人で、東京にはまったく知られていない奴もいる。しかし、そんなことは関係ない。探偵が面白いのではなく、依頼者をはじめ庶民がとてつもなく面白いのだ。この庶民のポテンシャルを引き出し、番組化したところにこの番組の面白さ、すごさがあった。
 また、番組企画の「日本アホ・バカ分布図」――人をしてアホという地域とバカという地域はどこで分かれるのか――は、シリーズ化され、その集大成は方言学の学術賞を受け、『全国アホ・バカ分布図』(新潮文庫』としてまとめられた。分厚い本だが、感動ものの1冊だ。
 関西では視聴率30パーセントをたたき出し、東京でもパクリのような番組がいくつも企画されたが、東京のテレビはその庶民のポテンシャルを引き出す能力がなく、いずれも失敗している。

 

 さて、本論だ。
 ぼくが上下2巻を一気読みしたのは『探偵!ナイトスクープ アホの遺伝子』龍の巻、虎の巻(ポプラ文庫)で、なぜこのような番組が生まれたかについて、プロデューサーが綴ったものだ。このプロデューサー氏は『全国アホ・バカ…』の著者でもある。
 ヒット番組は思いつきと運でそうなるのではない。確信を持って取り組み、低視聴率にもめげず革新を繰り返し、やがて“庶民の面白さ”を発見し、ついには“感動の物語”さえつくるに到る。それを支えてきたのは、話1本、1本を“先人のやったことのないことをやるんだ”という意気込みで、仲間と切磋琢磨して切り開いてきた若いディレクターや構成作家たちの奮闘だった。
 本書は、『探偵!……』の歴史を辿りつつ、それら若きディレクターや作家たちの悪戦苦闘ぶりを記し、栄誉をたたえるという本になっている。取り上げられている“名作”の大半は見ているが、もちろん見ていないものもあって、読んでいるとそれがくやしい。何より、この番組の裏にこれだけの苦闘・奮闘があったのかと知らされ、だからこその『探偵!……』だったのだと教えられた。

 

 東京ではこの番組を系列のテレビ朝日が深夜の深〜い時間にやったりやらなかったりで、ついに放棄し、現在はU局のTOKYO MAXがやっているが、ぼくんちにはUのアンテナがないので見られない。東京のほとんどのテレビ人がわからないのだ、と思う。

 この本は『探偵!……』を知っている人にしか伝わらないものであり、アナタがもし知らなければ、名作集がDVDで出ているので、TSUTAYAあたりでレンタルしてもらって、そのすごさにふれてから読んでほしいと思う。

 ……いや、泣けました。ホンマ。



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