October 2005

October 24, 2005

東急ハンズで買ったおニューの老眼鏡 老眼鏡の片方のパッド(鼻に当たる部分)を支える金属部分がペキッと折れた。
 まあ、始終かけるものではないので、片方ぐらいなくとも不便さはないのだけれど、外の人のいるところでかけるにはちとみっともないので、新しいのを買った。

 壊れた老眼鏡は、東急ハンズ新宿店で買ったものだった。2000円台だったと思う。やっぱり安いのは壊れやすいのかなと思い、今回は近視用のメガネをいつもあつらえている「和真」新宿店に行った。この店とはどれぐらいのつきあいだろう……といっても、メガネなんて毎年つくったりするものではないから、5代前のメガネ(うち1個は度付きサングラス)ぐらいからだが、それでも十数年にはなる(ぼくの場合、度が変わるだけでなく、ときどきなくしてしまうのです)。で、あつらえに行くと、うれしいじゃないの。最初につくったメガネからずっと記録が残っている。賀状と、誕生日にハガキがくる。内容はおおむねセールのお知らせだが、ハガキを持参すればくれるプレゼントの案内と、全商品対象の割引券がついている。

 千葉に住んでいたときに、一度だけ浮気して、浦安駅前のメガネ屋でつくったところ、できあがりをかけてみて、ちょっとばかり違和感を感じた。ま、新しいメガネだから慣れないのかナ、と思っていたら、近視のほうはともかく、裸眼のほうがおかしくなってきた。
 近視といってももともとたいしたことがない程度なのだ。
 この商売を始める20歳過ぎまで両眼とも視力は1.5あり、初めてメガネをかけたのは30歳のとき。映画館で洋画のスーパーがぼやけて読みづらくなったからつくったので、以降、多少度は進んだとはいえ、家にいるときには必要ないし、本だって雑誌だってテレビだって裸眼で平気だった。
 それが、ちょっと見づらくなったのだ。合わないメガネのせいだったのかどうか、ともあれこれが老眼の第一歩だった。40代に入ってすぐだった。
 調子がいいときは雑誌の文字などは大丈夫なのだが、薬のパッケージの文字など小さいものがお手上げになったし、辞書もダメ。で、最初はルーペで対応していたのだが、その調子のいいときがだんだん少なくなっていき、出張校正で大量のゲラを見ていると、目が疲れてぼけてくる……というような段階があり、ついに買った老眼鏡が壊れてしまったやつである。

 老眼鏡をかけることには、何ともいえない感慨がある。「ああ、オレもついに……」という思いなのだが、別に悲しくはない。むしろ、妙な快感さえあって、これはいったい何なのかねえ。

 老眼鏡をかけるようになってからも、近視用のメガネはつくっているのだが(もちろん和真で)、面白いのは多少あった乱視が矯正されたことだ。また度も少しだがよくなっていた。老眼のおかげである(といっても、ありがたい話ではないけれど)。

 で、和真に老眼鏡を買いに行ったら、既成のものはシンプルなメタルフレームのもの3タイプしかない(各2100円)。老眼鏡といえどもやっぱりもう少しデザインされたものがほしいので、仕方なく足を伸ばしてまた東急ハンズで買ったのが写真のものだ。これも2000円台だった。
 では、壊れたほうはどうしたか。
 実はトイレに読書用として置いてあります。



(15:42)

October 20, 2005

 借りてきたDVDを2回見返して、2回とも鼻水が出てしまいました。

 映画などを見ていて、ある役者を“認識”するのは、必ずしも世間が“これだ”いうときではない。そのアメリカの中年男性俳優については、プロフィールを見ると『セブン』でブレイク、『ユージュアル・サツペクツ』でアカデミー助演男優賞受賞とあるが――両方とも見ているのだけれど――ぼくが“認識”したのはJ・エルロイの小説を映画化した『L.A.コンフィデンシャル』だった。
 その俳優とはケヴィン・スペイシーで、以降、C.イーストウッド監督の『真夜中のサバナ』、サミュエル・L・ジャクソンが主演だった『交渉人』、ピューリッツァ賞をもらったという文学作品の映画化『シッピング・ニュース』、SFチックな『光の旅人』などを見ているのだが、印象としては“どんな役柄でもこなせる――シブい――巧者”という印象だった。

 だからといって、彼の大ファンというわけではなく、見ていないのも多いのだが、この映画(DVDですが)を観たのは、古くはジェームス・スチュアート主演の『グレン・ミラー物語』、ダニー・ケイの『五つの銅貨』、ダイアナ・ロスがビリー・ホリディを演じた『ビリー・ホリディ物語』、近くはレイ・チャールズを描いた『Ray』、ケビン・クラインがコール・ポーターに扮した『五線譜のラブレター』など、ミュージシャンを描いた映画が好きだという流れなのだが、オープニングでケヴィン自身が歌う「マック・ザ・ナイフ」でいきなり引きずり込まれてしまった。

ビヨンド the シー この映画――『ビヨンド theシー』は、ボビー・ダーリンという1960年代のアメリカ・ポップス界のスーパースターだった歌手の物語だ。といっても、ぼくは名前は聞いたことがあるけれども、よく知らない。ただ、冒頭のケヴィンが歌う「マック・ザ・ナイフ」で、「ああ、この歌を歌った歌手か」と思った程度だった。タイトルの「ビヨンド・ザ・シー」もボビーの歌のタイトルで、聞けば耳になじみかあったから、アメリカではこのタイトルだけで「ああ、ボビー・ダーリンの映画なのね」とわかるのかもしれないけれども。
 従って、ぼくにボビー・ダーリンに対する思い入れは何もない。
 では、何で面白かったのかといえば、一にも二にもケヴィン・スペイシーだった。

 映画の中での大半の歌は彼自身が歌っており、ロカビリーからスウィングジャズ的なナンバーまで歌い分ける巧みさ(決してボビー・ダーリンの歌真似をしているのではないことは、ときおり流れるオリジナルを聞くと、ボビー・ダーリンの声はもっと甘いことからわかる。つまり、自分なりに歌っているのだが実にいい)。
 さらに、『ザッツ・エンターテイメント』に出てくるかつてのミュージカル映画のような1面もあり、いくどか群衆のダンスシーンがあるのだが、その真ん中で踊るケヴィンの見事さと恰好よさ。アメリカ・ショービズ界のレベルの高さを知らされるのは、こんな時だ。
 
 そして、もちろん物語の巧みさもね。
 感染症の心臓病で15歳が寿命と医師から宣告された少年が、母から音楽という素晴らしい世界を教えられ、“シナトラを超える”ことを目標に、義兄や姉らの力を借りながら売り出していく。そして、映画出演で知り合った若きトップ女優を口説き落として結婚し、グラミー賞も取り、映画にも出てオスカーの候補にもなる。
 しかし、60年代に入り、音楽シーンも大きく変わる。かつてはクラブが最高のステージであり、その中でも最高の「コパカバーナ」にも出たのだけれど、折しも、ベトナム戦争の時代だ。「音楽はクラブではなく、スタジアムの時代になってしまった」。もはや忘れられた彼はどうするのか。しかも、複雑な家族関係を初めて知らされる――。

 こいつをやりたかったのはケヴィン・スペイシー自身で、企画・監督・脚本も彼。企画から10年以上というから、ケヴィンのライフワークのひとつだったのだろう。

 映画の中で、いつも主人公につきまとうのが、「15歳で死ぬ」と宣言されたときの自分の幻影の少年で、ラスト、その少年と見事なダンスを見せるシーンは秀逸で……ここで鼻水が出るのです。

 映画のオフィシャルサイトにアクセスすると、ずっとケヴィンの「ビヨンド・ザ・シー」が流れている。
 http://www.gaga.ne.jp/beyondthesea/

 



(00:02)

October 10, 2005

 パソコンを立ち上げてまずやることは、誰だってそうだと思うがメールの確認だ。
 いつの頃からか、開くとメール数が60通だの70通と届くようになった。いや、ぼく個人宛てに知人・友人・仕事先からそんなに来るわけではない(そんなに来るほどメールのやり取りをしたり、仕事がたくさんあったりするわけではない)。
 ぼくが関わっているある非営利団体宛に来るメールが転送されてくるように設定していて、大半はそれなのだ。しかも、中身はというと、もちろん大事なものもあるのだけれども、それ以外は無差別に送りつけてくる出会い系やH系サイト、海外からのわけのわからないサイトからのもので、しかも事業によってアドレスを複数設定しているものだから、前記のような数に上ってしまう。
 ゆえに、まずやることはメールの確認であり、それらわけのわからないメールの削除で、いちいち中身を見るわけではもちろんないから、次々と削除するのだけれども、精神的にくたびれてしまう。いー加減にせーよ!

 最近、手が込んできたのは女性名で来るメールで、もう慣れたから見知らぬ名前については片っ端から削除するのだが、中で1回だけ引っかかったのがあった。なぜかというと、単発ではなく、日をおいて送られてくるシリーズものだったからだ。
 で、一度は全部削除したのだけれど、振り返ってみたらなかなか面白かったな、と思っていたら、再びアプローチして来たので、今度は取っておいた。
 それが以下の、名付けて「井川りかこ物語」である。

 さて、最初のメールだ。

【プロローグ】
To: ××××(ぼくが関わっている団体のメールアドレス)
From: 井川りか子(××××=先方のメルアド)
Subject: 私のアドレスにメールした記憶はありますか? 

私のメールボックスにエクセルらしき添付ファイル付きでメールが来てたんですが…どんなご用件でしょうか?
送信者アドレスが私の知らないアドレスだったので、何か間違いかと思って。

添付ファイルの内容はもしウィルスだったらと思って開いてません。
4458_sumi_15.xlsと言う名前のファイルです。
もし重要な書類だったらと思いメールしたんですが…。
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井川 りかこ

 その団体のホームページ担当者T(30歳、♂、独身)は律儀に「送っていません」と返事したらしいが、責任あれば誰だって返事してしまうだろう。
 そうしたら、次のメールが……。

【第1章】
To: ××××
From: ××××
Subject: 添付ファイルの事でメールした井川りかこです。 

私の方でもパソコンに詳しい知り合いに聞いてみたりして調べたんですが、いたずらウィルスじゃないかと言う結論になりました。

ただ、開かなかったのでウイルスに感染してはいないようです。
お騒がせしてごめんなさい。
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井川 りかこ

 これで一件落着だと普通は思うよな。そうしたら急展開……。
           
【第2章】
To: ××××
From: ××××
Subject: 井川りかこです。何度もメールしてしまって

無神経かもしれませんが…もし良かったらメル友とまではいきませんがメール交換でもしませんか?

実は先週離婚して今、実家に居るんです。
近くに誰も話相手もいないし。突然届いたメールに返信してしまったと言うのもあるんです。

もし暇なお時間とかあるんでしたら、お話し相手にでもなってくれませんか?
無理にとは言いませんので。気が向いたらでいいです。お返事下さい。
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井川 りかこ

 このあたりでぼくも彼も怪しいと思ったのだが、続いて……。

【第3章】
To: ××××
From: ××××
Subject: どうも、井川です。

何もする事が無く、迷惑かと思いつつメールに手が伸びてしまいました。

メル友をお願いしたとは言え、何も知らない私にメールするのも微妙ですよね…。
一応自己紹介しておきます。

32歳で、先週離婚したばかりです。子供は居ません。
今は実家に一時的に住んでいます。

離婚の原因は…夫の浮気です。
2週間も家に帰って来なかった時期があったりとずっと前から怪しかったのですが。

色々と調べた結果、会社の部下と浮気を2年していた事が発覚して。
まぁ、よくある話ですが自分にまかさ起こるとは思いませんでした。

こんな話をするのは少し気が引けたのですがお話を聞いてくれる相手もいなくて。

勝手に私一人盛り上がって迷惑をかけるのも嫌なのでこの辺で。
またメールしてしまうかもしれませんがお願いしますね。
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井川 りかこ

 夫の浮気に悩む人妻、というキャラクターで迫ってきました。さらに……。

【第4章】
To: ××××
From: ××××
Subject: メール楽しいですね。井川です(^-^) 

実家に居るからと言って親に甘えようと思ってたのですが…出戻りなんだからと言う理由で家事は私がさせられています。

離婚後の良い気分転換だとは思うんですけど。
親には毎日、毎日、言われるんです。
早く恋人の一人でも作ったら?って。

確かにこっちに戻って来てから私の周りには異性の気配がしませんが…気分なんてそう上手に切り替えられないですから…。

それと、思ったんですがやはり私が何処に住んでいるのか気なりますよね?

実は実家と住んでいた家は隣の県なので(^^ヾ戻っているとは言えない感じです。

ただ、あくまで今はメールでの関係ですからあえてそこは知らなくてもいいのでは?そう思って言わないんです。

もし、これが実際に会うと言う話になるのなら少しは違いますがそれは私は今は考えてないので。

こっちに戻って来てから少し変わったと言えばデジカメを買って色々と写真を撮るようになりました。
風景の写真、空の写真、自分の写真。日記の様に撮っています。

別に何でもないんですが。
新らしい事を始めるのって少しですが違いますよね。

何か今興味あってしてる事ってありますか?

長くなってしまってごめんなさい(^-^;
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井川 りかこ

 これだけ読むと、まるでこっちが相手の誘いに乗って、メル友になったみたいじゃないの。早めに言っておくけれど、決してそんなことはないぞ。しかし、生活のディテールを書くというリアリティ作戦がニクイね、どうも。

 さらにフレンドリー、かつ核心に迫りつつ、読んだ本の話なんかあって……。

【第5章】

To: ××××
From: ××××
Subject: 何だか日課になりつつあります。井川です(^-^)

昨日色々考えてたんですが。男の人ってどういう感覚で女性を見るんでしょう?
やっぱり素敵な女性はどんな状況でも結婚していても一番好きな人がいても抱きたいって思うんですかね?

男の人と女は違いますよね。

逆に綺麗じゃない女性でも抱かせてくれるならそれはそれで受け入れてしまうのでしょうか…。

私自身、22歳で結婚するまでは男性とお付き合いした経験が無かったもので(^-^;

別れた主人が最初の恋人であり、生涯の相手だと思ってたんですけどね…。

写真、撮ったの送ってみたりしたいのですがウィルスとかやっぱり私自身添付ファイルには怯えているので機会があったら見せたいと思います。

今日はなんだか少し脱力していてずっと本を読んでいました。

川北義則著、いちばん大切な生き方 ひとりになって、見えてくることわかること
と言う本です。

本屋さんで見かけてついつい買ってしまったのですが。

正直文字が頭に入って来ないので眺めてる程度でした。

昔は漫画ばかり読んでた自分がこういう本に手を出すのは変化なんでしょうか。
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井川 りかこ

 川北義則さんというのは知らないが、調べたらこんなプロフィールだった。

1935年大阪生まれ。1958年慶應義塾大学経済学部卒業後、東京スポーツ新聞社に入社。文化部長、出版部長を歴任。1977年退社、日本クリエート社を設立する。現在、出版プロデューサーとして活躍するとともに、生活経済評論家として、新聞、雑誌などに執筆。講演も多い。主な著書に『人生・愉しみの見つけ方』『いまはダメでも、きっとうまくいく。』『40歳から伸びる人、40歳で止まる人』(以上、PHP研究所)、『自分のための24時間』(三笠書房)、『中高年のマーケットを狙え!』(ダイヤモンド社)、『だれでもできる30歳からの貯め方・殖やし方』(河出書房新社)ほか多数がある。

 ともあれ、こうなると次のメールに期待大だ。そうしたら……。

【終章】
To: ××××
From: ××××
Subject: 井川です。勇気のいる告白ですが…。 

このメールアドレスが明日には使えなくなってしまうみたいなんです。

私、メールをしながら錯覚してしまったのかもしれませんが、以前はメールだけの関係と言ってましたが。
正直な意見として会ってみたい。そう思ってしまいました。

勇気がないので…直接伝える勇気の出ない言葉と私の写真を住んでる地域情報サイトに載せました。

サイトの「お相手検索」から「恋人募集」にして、私の血液型「O型」を入れたら検索できるはずです。
名前はそのまま「井川りかこ」で待っています。
×××××(サイトのURL)
このURLから見る事が出来ます。
もし、そういう出会いを求めてくれるのであれば私の携帯の番号を教えます。
私のフリーアドレスでも平気だったので簡単に使えました。

それでは、待っていますね。
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井川 りかこ

 というラストレターでありました。 
 そしてぼくらも、井口りか子嬢とお別れしたのでした。

 りかこォ、元気かぁ〜。

※このメール群の日付は今年の6月〜7月で、本文を書いてからウェブで調べたら、大変な話題になっていたことを追記しておく。



(01:42)