April 06, 2005

 いまいる町に住み始めて、10年を超えてしまった。

 いまの住処を決めた理由は、あまり多くない。一軒家で庭で犬が飼えること、周囲に緑が多いことぐらいだった。3年半ほど前までは犬が2匹おり、犬小屋2つを置くだけのスペースが必要だったことと、ほぼ日課の犬の散歩に、やはり緑が多い風景のほうがこちらとしても気分がいいからだ(それ以前にいたところはもともと埋め立て地で、公園か申し訳程度の街路樹ぐらいしか樹木はなかった)。散歩については、犬の足で10分ほどのところに多摩湖自転車道というのがあり、桜並木になっていて、ちょうどこれからの短い時期、咲き始めから満開、そして散りゆくまでの桜花が目を楽しませてくれる。
 あと、付け加えるとしたら都心までそれほど遠くないということぐらいだろうか。最寄り駅から新宿まで、急行なら20分余でたどり着く。

 それ以外は特筆するようなことのない町で、この10年の変化といえば、駅舎が新しくなったこと、3軒あったレンタルビデオショップが全滅したこと(おかげで新宿TSUTAYAまで借りに行かねばならぬ)、そして飼っていた犬の1匹が13歳半で死んだこと……ぐらいか。何と残った犬は死んだ犬と同年齢なので、今年17歳になる。呆けてきて、夜、鳴き声を上げる。昔、子犬のときにクルマに轢かれたときの後遺症がいまになって出てきたのか、右の後ろ足が悪くなって踏ん張りがきかず、トボトボとしか歩けなくなってしまった。
 そして、犬が老いた分、ワタシも老いる。


 ……いや、そんなしんみりした話を書くつもりじゃなかった。
 この4月、ひとつの変化があった、という話だ。
 それは新しいスーパーの進出で、これまで駅前のスーパーといえば、商店街のある北口に沿線の鉄道と関係のあるSと、ほとんど何もない南口に食品スーパーPがあるだけだったところに、“駅前再開発”ということで、Sが君臨していた北口の高校移転跡地に新たにIというスーパーが進出してきたのです。
 何にせよ、競合相手が出てきたということは、住民としてはありがたいことだと、その新しいスーパーを覗いたら――既存店舗ではやっているのかもしれないが――ちょっとユニークなサービスをやっていた。逆浸透膜で濾過したピュア・ウォーターを無料提供するというんです。
 そのサービスを利用するには登録が必要だというから、もちろんすぐにぼくも登録しました。まず入会申込書に住所・氏名・電話番号を書いて渡すと、水利用のためだけのプラスティックの会員タダでもらえる水証と、専用ボトルをくれる、というか売ってくれる。1個4リットル入りで504円のところをいまなら半額だ。
 それを持って店舗の一角に置いてある給水器コーナーに行き、まず会員証を機械に通す。すると給水が受けられる部分の扉が開くから、そこにボトルを置いてボタンを押すと、ボトルいっぱいのピュア・ウォーターが注がれる――というもの。

 この水について、説明書にはこうある。
「……水中の不純物をほぼ完全な形で取り除いて出来るお水です。逆浸透膜は、身体に有害な物質は除去しますが、水を円やかにする炭酸ガスや酸素は残るため、身体に大変優しいのが特徴です。お茶、コーヒー、水割り、炊飯、赤ちゃんミルク、氷、ミストウォーターと用途は多彩です」

 これは顧客サービスおよびリピーターの獲得として、かなりのグッドアイデアではないかと思うね。生活用水のうち、飲用分についてはミネラルウォーターを金を出して買っている人も少なくないでしょう? ぼくの場合は蛇口取り付け型の浄水器+備長炭でまかなってきていたのだけれども、ミネラルウォーターではないにせよ(ピュア・ウォーターということは、ミネラル分もほとんど除去してしまう)、良質な水がタダで手に入るのだから。

 というわけで、その4リットルの水をありがたくいただいて帰ったわけだが、帰りつつ、ふと心配にもなった。水4リットルといえば4キロでかなり重い。そのスーパーは駅の真ん前だから、客の大半は徒歩か自転車だ。水をもらうのにスーパーに来るのはよいけれど、4キロの水を手にしたら、重くて買い物はそこそこにすますのではないかしら。
 いや、実際、その日ぼくもいくつか買い物の予定があったけれども、テレコや資料やら仕事道具を入れたリュックを背負っていたせいもあって、水の重さに何も買わずに帰ってきたからで……そのあたり、I社の社内評価はどうなっておるのか、気になっている。



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